Wednesday, July 16, 2008

SUB POP 生誕20周年

先週末の土日にシアトルで、地元音楽レーベルSUB POPの生誕20周年を祝うフェスティバルが行われた。これに合わせて期間限定で再結成した幾つかの懐かしいものから、ここ最近レーベルの看板とも言うべき新しいバンドまで新旧織り交ぜた幅広いラインナップで、発足当時はグランジと呼ばれるジャンルの総本山的扱いから、今や良質のポップミュージックを輩出する優良レーベルへの軌跡を表しているようでもある。

17、8年前に未だ米国で注目され始めたばかりのNIRVANAを切っ掛けに、同バンドが籍を置いていたレーベルSUB POPからリリースされていた他のバンドも聴くようになった。今日のようにインディレーベルの音源が簡単に手に入る時代ではなかったので、当時は吉祥寺に店舗を構えていたワルシャワというレコード店へ毎週のように足を運び、新しい出会いは無いかと胸をときめかせたものだ。視聴なんて満足に出来ないので、勿論ジャケ買いは当たり前。それから音楽雑誌のレビューなども参考にした。それでも聴いてみてがっかりする事は少なからず有り、そのレーベルがどれだけ質の高い作品を出しているのかということが購入する際の決め手の一つとなった。

話が少し本題から逸れてしまうが、当時インディシーンの盛り上がりとともに多くのバンドがメジャーレコードに青田買いされ、どう考えてもこれはジャーで出すには?マークが付くようなものまで食い尽くされた。メジャーが悪いとは思わないが、やはり実力が伴わなかったのか、流行に乗っていただけなのかその後数年で消えていくバンドが数多くあった。新鮮さが失われたシーンに飽きて、テクノ、ドラムンベース、クラブジャズなどを聴くようになり、私はロックミュージックから5、6年間遠ざかっていた。そしてある時、エレクトロニカからインストルメンタルを主体としたポストロックに出会い、再び興味がき、バンクーバー駐在生活のはじまりとともにそれは更に膨れ上がった。自分が聴いてきた音楽の変遷と重ね合わせるように、レーベルの昔と今を体現出来るのは意味があることだと思い、このイベントに参加することを決めた。

会場となった場所は、シアトル郊外レドモンドにあるマリムーア公園内の野外ステージ。施設HPに拠ると収容キャパは5,000人程度ということで、実際2日間その場にいて、観客の数は少なくも無く多くも無くという感じで、ちょっとした普通のコンサートと規模はそれほど変わらない。
この野外ステージはバンクーバーのディアレイクパークと同じように全面が芝生に覆われていて、観客が折りたたみの椅子やビニールシートを持ち込めるようになっている。ここ数日天気に恵まれ芝生も良く乾いており、そのまま座っても服が湿ったりということも無い。それにこれまでのフェス経験から、服装はトレッキング用のズボンの裾が着脱可能なパンツに、シャツ、ツバの広い麦わら帽子という恰好である。全く気にする必要など無い。
気温は30度近かったがからっとした暑さは日本の夏と違い、気持ちが良い。しかしながら、この北米の辺りは紫外線が日本の約7倍と言われており、露出した肌に日焼け止めを塗らないと、あっという間に焼けてヒリヒリしてしまう。
適度に塗り重ねても後で家に帰ってみると陽射しが常に当っていた二の腕はこんがりと焼けている。夏の日差しは女性にとって本当に大敵であろう。

さて初日。開演1時間後に入場して、メインステージから30mほど離れた芝生の上に腰を落ち着けて、ライブ鑑賞を愉しむ。メインステージの脇にはサイドステージが有り、それら二つのステージを交互に使い、各バンド持ち時間40分の演奏が続いていく。この演奏時間は少なくもなく多くもなく丁度良い時間である。知らないバンド、あまり興味の無いバンドでも見みてみようかという気になる。初日はトロント出身で何度かライブを見たことがある CONSTANTINES、LOW、それからレーベル初期から今も活動が衰えないMUDHONEYを観る。普段家で頻繁に聴く事は無いけれど、ライブを見ていて本当に楽しく感じる。そしてこの日のハイライトは、NIRVANAが楽曲を多数カバーした、VASELINSのスペシャルライブ。これは本当に貴重である。実際米国でライブを行うのは初めてで、後にも先にも今のところこれっきりということになる。シンプルなコードにセンスの良いメロディが乗った楽曲は何年、何十年経っても色褪せていない。ライブ終了後、その日は会場近くのモーテルに泊まる。道に迷いながら車を走らせると、マイクロソフトの本社を発見、周りにはコンピューター関連企業のオフィスが多くある。その為か、泊まったところもモーテルと言うよりはウィークリーマンションといった感じで、冷蔵庫、食器、電子レンジなど揃っており、一泊80ドルにしては十分豪華である。

二日目。11時のチェックアウトギリギリまで部屋で時間をつぶしてから、会場に入る。この日一番の目当てはイギリス出身の新人FOALS。
若干22〜23歳というメンバーの年齢からは驚くほどに洗練された楽曲が揃ったバンドだ。メロディで音を紡いでいくのではなく、例えば祭囃子的なリズミカルなテンポの曲が多く、これはここ数年でブレイクしたディスコパンクの代表格BLOC PARTYなどに通じるものがあるが、それらと根本的な違いがあるのはメンバーの音楽性に拠るものであろう。ライブ演奏を観ていと、BATTLESに代表されるマスロックが好きなんだろうなということが分かる。ただ経験値のせいもあるからか、パフォーマンスが雑で客のテンションが途中トーンダウンしてしまうように見えた。演奏面ではなくあくまでも観客との間のノリという点で。好きなバンドだけに敢えて辛口の評価とする。
しかしこのバンド、今後台風の目になりそうな存在で、メジャー、インディそれぞれの音楽ファンにアピールできるではないかと思う。
この日は他にインストを主体としたガレージエクスペリメンタルロックとも言うべきKINSKI、他に知名度上昇中のニューウェイブパンク、NO  AGEなど様々なタイプのバンドのライブを愉しむ。そしてトリ前のGREEN RIVERを観る。GREEN RIVERは日本では何故かぱっとしない、超大御所バンPEARL JAMのメンバー二人と前述のMUDHONEYのメンバー二人が20年以上昔に組んでいたバンドである。楽曲自体は余り好きになれない陰鬱なロックだが、こういう場に立ち合えること自体、やはり貴重だと思う。

最後にこのイベントの収益は出演した各バンドに均等に割り振られ、様々な基金へ全て寄付されるのだそうだ。初日のチケットは売り切れになっていたし、二日目もそこそこ観客がはいっていたようなので、企画は成功だったのでは。